お菓子のおいしさは舌で感じるものだと考えがちですが、本当に舌だけで決まっているのでしょうか。風邪で鼻がつまっているときに好きなお菓子を食べても、いつもの味がしないと感じた経験を持つ人は多いはずです。
私たちが味と呼んでいるものの多くは、実は口の中から鼻へと抜けていく香りによって支えられているといわれます。舌が感じ取れるのは甘さや酸っぱさなど限られた種類だけであり、お菓子ごとの個性は香りによって形づくられているのです。
お菓子を口に運ぶ前に鼻へ届く香りは、これから何を食べるのかを予告し、期待を高める役割を果たしています。焼きたての香りが漂う店に入ると思わず足が止まるように、香りは食べる前から人の気持ちを動かす力を持っています。
噛んでいる間に口の奥から立ちのぼる香りは、甘さや食感と結びついて、そのお菓子らしい味わいを完成させます。同じ甘さの生地でも、バターの香りが加わるか果物の香りが加わるかで、まったく別のお菓子として感じられるのはそのためです。
食べ終わったあとに口の中に残るほのかな香りも、お菓子の印象を決める大切な要素として見逃せません。余韻が心地よいお菓子はまた食べたいという気持ちを呼び起こし、記憶のなかで長くおいしい思い出として残りやすくなります。
香りには、甘さを実際よりも強く感じさせたり、やわらかく感じさせたりする働きがあるともいわれています。砂糖の量を控えたお菓子でも満足感を保てることがあるのは、香りが甘さを補う役割を担っているからだと考えられます。
さらに香りは、懐かしい記憶や季節の情景を呼び起こすきっかけにもなり、お菓子に物語を与えてくれます。こうして考えると、香りはおいしさの飾りではなく、お菓子の味わいの中心を担う存在だといえるのではないでしょうか。
それでは、私たちが日々楽しんでいるお菓子の香りは、いったいどこから生まれているのでしょうか。材料そのものが持つ香りと、加熱などの作業によって新しく生まれる香りの二つに分けて考えると、香りの扱い方がぐっと理解しやすくなります。
材料そのものの香りとしては、バターや卵、果物、木の実、香辛料など、素材が本来持っている香りが挙げられます。質のよい素材を選び、その香りを損なわないよう丁寧に扱うことが、香り豊かなお菓子をつくるための基本になります。
焼くことで生まれる香ばしい香りは、生地の表面が色づいていく過程で、糖やたんぱく質が変化することによって生まれます。焼き色が浅すぎると香りが弱く、濃すぎると苦みが出るため、焼き加減の見極めが香りの出来を大きく左右するのです。
香りは熱や時間によって飛びやすいため、どの段階で香りの素材を加えるかを考えることがとても大切です。香りの強い素材を早く入れすぎると焼いている間に失われてしまうので、仕上げの段階で加えるといった工夫がよく行われます。
一方で、香りを強くしすぎると素材の持ち味を覆い隠し、何を食べているのかわからなくなるおそれがあります。主役の素材の香りを引き立てるために、ほかの香りは控えめにするという引き算の考え方も、作り手には求められるでしょう。
お菓子を保存するときの容器や包み方によって、香りが移ったり抜けたりすることにも注意が必要です。香りの強いものと同じ場所に置くと思わぬ香りが移ってしまうため、保存の仕方まで含めて香りを守る意識を持つことが大切になります。
食べる温度によって香りの立ち方が変わることも、香りを扱ううえで覚えておきたい点のひとつです。冷たいお菓子は香りが感じにくくなりやすいため、冷やして食べることを前提にする場合は、香りをやや強めに設計するといった調整が考えられます。
目に見えず形にも残らない香りを、製菓の学校ではいったいどのような方法で学んでいくのでしょうか。多くの学校では、技術の授業のなかで香りを意識する場面を少しずつ増やしながら、香りを言葉で捉え、作品に生かす力を育てていくようです。
授業では、同じ生地を焼き時間だけ変えて焼き比べ、香ばしさの違いを鼻と舌で確かめることがあります。わずかな焼き加減の差で香りが大きく変わることを体験すると、オーブンの前で生地を見守る姿勢そのものが変わっていくでしょう。
香りの素材を加える時期を変えた生地を食べ比べ、どの段階で入れると香りがよく残るかを確かめる実習もあります。理屈として教わるだけでなく、自分の鼻で違いを感じ取ることで、仕事のなかで使える確かな感覚が身についていきます。
感じた香りを言葉にする練習も、学校で香りを学ぶうえで欠かせない取り組みとして重視されています。香ばしい、甘い、爽やかといった言葉を使い分けて記録していくと、仲間や先生と香りについて具体的に話し合えるようになるのです。
学校の仲間と同じお菓子の香りについて感想を出し合うと、人によって感じ方や好みが違うことにも気づかされます。その違いを知ることは、より多くの人に心地よく感じてもらえる香りの強さを探るうえで、貴重な手がかりになってくれます。
先生からは、店頭に漂う香りがお客様を呼び込む力になるといった、現場ならではの香りの役割について話を聞くこともあります。お菓子の中の香りだけでなく、店という空間全体の香りまで意識する視点は、将来の仕事に大きく役立つはずです。
香りを意識して作る経験を重ねるほど、お菓子を味わうときに自然と鼻を使うようになり、作り手としての感覚が磨かれていきます。学校で育てた香りへの感受性は、卒業後に新しいお菓子を考えるときにも、確かな支えになってくれるでしょう。
お菓子のおいしさは舌だけで決まるのではなく、口に運ぶ前の香り、噛んでいる間の香り、食べ終えた後の余韻によって大きく支えられています。香りは甘さを補い、懐かしい記憶や季節を呼び起こす力を持つ、お菓子の味わいの中心を担う存在だといえるでしょう。
お菓子の香りは、素材そのものの香りと、焼くことで生まれる香ばしさの二つから成り立っており、扱い方によって大きく変わります。加える時期や焼き加減、強さの引き算、保存の方法、食べる温度まで意識することで、狙いどおりの香りを届けやすくなります。
製菓の学校では、焼き比べや食べ比べ、香りを言葉にする練習、仲間との感想の共有などを通じて、香りを扱う感覚を育てていきます。店の空間全体の香りまで含めて考える視点を学べることも、学校で学ぶことの大きな価値のひとつといえるはずです。
次にお菓子を食べるときには、口に入れる前にひと呼吸おいて、その香りをゆっくりと確かめてみてはいかがでしょうか。香りに意識を向ける小さな習慣が、お菓子のおいしさをより深く味わい、やがて自分で作る力へとつながっていくはずです。製菓学校のことならこちら